A2 [DVD] ドキュメンタリー映画

A2


森達也監督のドキュメンタリー映画(2002年公開)。アレフ(オウム真理教)の各地道場の様子を追いかけるものだ。

鮮烈なシーンがあって、それはオウムの信者と地域住民が記念写真をとるシーンだ。記念写真だ。間違いない。

自分の町にオウムがきたら、「オウム出ていけ」「絶対ゆるさない」となるのはほとんど必然だ。「殺人集団」なのだから。だからしつこく出ていけと言う。でも出ていかない。だから元からの住民は、オウム施設の付近にプレハブなどを設けて監視することになる。来る日も来る日も監視するのだ。

毒のイラスト

A2 [DVD] ドキュメンタリー映画

じっと黙って監視するのかというと、そうではない。信者が道場に持ち込むものをチェックすることなどから始まり、住民たちは低い塀を境に、オウムの若い信者達と言葉をかけあう。そこから自然にある種の交流ができてくる。

始めは、ただひたすらオウムの信者というだけで恐れていた住民が次第に、「オウムはいやだけれど、個々の人はキライじゃない」となり、個々の人間としてはそんなに怖くもないし悪くもないという印象をもつようになる。長い長い「監視」のあいだ、言葉を交わしていくうちに「情がうつる」と述べた住民もいた。

プレハブのイラスト

さて、どうにもこうにも近い将来に悪さをしそうもないからということか、監視小屋のプレハブやテントを住民が撤去する日が来た。そのとき住民に混じって、オウムの信者が撤去の作業を手伝っている。それもごく自然に協力しあいながら。

作業のあと、オウムと住民とが一緒にぱちりと記念写真。奇妙な光景だが、これもまた真実なのだ。写真のなかで、住民の一人が「オウム反対!」のプラカードをなんとも言えない複雑な表情で掲げていたのが印象的だった。

カメラで撮影をしている人のイラスト

他のシーンだが、ある日オウムが別の地域に引っ越すことになった。ここでも長い監視の結果、住民とオウムとの交流ができていた。ある住民の衝撃的なセリフ。

「出ていくとなると感無量だよ。さみしくなるよ」

また別の住民は、「自分自身混乱している」と語っていた。 危険なはずのオウムなのに、自分のこの気持ちは何なのだ、というわけである。

この映画のような事例ばかりではないだろうけれど、このような情景もまたいくらかの真実を含んでいるのだろう。世間的にはまったく封印されている話なので、自分のものの見方にバランスを与えてくれるような映画だった。

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