タイトルから連想するようなカタログ的で退屈な本ではない。たしかにヴァイオリンという楽器そのものについても触れられるのだが、むしろ主に書かれているのは、それに関わった人たちにまつわる人間ドラマである。
本書をオススメしたい立場としては、 タイトルが落ち着きすぎなのと、少々内容とずれがあるのとで、もどかしい。
最初の章は、ヴァイオリンという楽器自体の歴史について語られている。
そこを超えると、 ヴァイオリン製作者にまつわる興味深いエピソードが目白押しだ。とりわけ、人生をヴァイオリン蒐集に捧げたタリシオの話は読者の心を鷲掴みにする(この蒐集家を映画化したらヒットしそう。タリシオの名は、ストラディバリウスの名とともに、もっと当たり前になってよいはずだ)。
翻訳も読みやすい。50年以上前のものなのに、今読んでもほとんど違和感がない。
価値がある本である。
ちなみにあとがきで”Geigen”の翻訳だと書かれているが、正しくは”Geigen und Geiger” の翻訳の模様(「ヴァイオリンとヴァイオリニスト」の意)。