1962年から64年にプリンストンで生活した著者による、アメリカ体験記。
著者はアメリカに来て、日本にあったつながりがいったんリセットされ社会的にゼロになったことを感じたが、 学会発表で好評を博するなど、抜群の知力によって現地の人に自分の価値を認めさせ、自分の場所をつくることに成功した（１年目はロックフェラーの奨学金生活だったが、２年目は大学からの給与を受けたという）。
本書から受ける印象だけをたよりにする限り、適者生存の場であるアメリカは、力ある著者にとっての葛藤の対象ではなく、自分の場所のようにみえる（自分のなかの日本からはみだした部分を受け入れてくれる場所としても、アメリカは心地よかったようである ）。
とくに２年目から完全に教師として彼らに「与える」側になっていて、そこには余裕すらみられる。だから本書では「奮闘」が語られることは少ない（あえていうと、最初に、支給金を上げるようロックフェラー財団にかけあったところぐらいだ）。著者は、どちらかというとアメリカ的なものをいくらか内在化させてアメリカを眺めているような趣がある。
著者自身はアメリカ社会にくいこんでいけた側だが、くいこめない人々についても、自身のアメリカでの交友関係を題材に多く語り、残酷な差別社会の構造を照らし出している。一般に、通時的な記述はともすれば退屈になりがちだが、本書の場合、そこに織り込まれる考察が的確であり、ずっと興味深く読み進められる。１９６０年代初頭の本だが、今読んでも目を開かせられるものがある。
