危機に立つ日本の英語教育 大津 由紀雄

危機に立つ日本の英語教育

日本の英語教育が妙な方向に動いていることについて、とりあえず今読むとしたらこれ。

危機に立つ日本の英語教育  大津 由紀雄

英語教育が会話中心の薄っぺらなものになりさがってきている元凶が経団連であることを、本書所収の江利川氏(和歌山大学教授)の論文は示している。経団連の多くの役員企業が、アメリカを中心とする多国籍企業の共同の利益代表としての性格を強めている状況下、英語の使い手を増やす方向の圧力が教育界に向けられるわけだ。小学校英語もこの流れにある。

表層的な会話主体の授業で、英語に達者な人間が多く育つなら世話はないが、どんな方式にしても学校教育内のみでそうした使い手を多く育成するのはほとんど「原理的に」と言いたくなるくらい不可能なことであり、それは多くの識者が同意することである。妄想を去れば、一般の人もすぐ納得できる話だ。下支えするものの強化なしに、上っ面をなぞっても効果がないのは、どんな分野でも同じだろう。

本書編者の大津氏の元には、ここ数年で現場の教師から嘆きの声が600通も届いているという。そのごく一部が紹介されているが、それだけみても、どれほどこの流れが無理筋なものかがわかる。現場は惨状のようだ。許されるならもっと声を聞きたいと思った。

大津氏を中心としてまとめられた同様の危機本が数年ごとに出ているようで、危機感は強いというのは伝わってくるのだが、思うに、こうした本を出すだけでなく、世間とか産業界への「直接的な啓蒙」といったことも必要ではないだろうか。読みながらずっと、この人たちに足りないのは諸葛亮のような軍師だなと思っていた。

いくら元凶だといっても、経団連の主立った人たちが、表面的な英語教育では自らが望むような人材は形成されないことを正しく把握してくれさえすれば、現状のような会話主体の流れは止められるように思うのだが。

本書の著者たちの意見は「論理」としてはもっともなことばかりなのだが、その論理でもって世間様や産業界など、周囲を説得する「戦略」が決定的に欠けている気がするのである。

危機に立つ日本の英語教育  大津 由紀雄