生物と無生物のあいだ (講談社現代新書) 福岡 伸一

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

著者の文章は、広く読書してきた人にだけ書ける種類のものだ。非常に文系的な香りする本でで、 理系の新書としてはとても新鮮な印象を受ける。ここぞというところは微に入るをいとわず理詰めで攻めてくるが、読者がイメージしやすくする工夫を忘れていない。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書) 福岡 伸一

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話の進め方も巧みだ。

現在の目から見て、野口英世の業績のほとんどが錯誤だったという評価は日本人を少々落胆させるが、錯誤の理由を推理仕立てで説得的に語る。錯誤は野口の時代に限らず、つねにありうること。同様の錯誤がないように慎重に研究を進め、DNAこそ遺伝子であると結論づけたエイブリーへと話をつなげていく。

二重らせん構造の発見をめぐって、ワトソンやクリックらよりも、エイブリーやフランクリン女史などの「アンサングヒーロー」こそが重要な役割を担っていたとし、忘れられたものへの視線は優しい。

本書後半の議論だが、作者のグループは、ある遺伝子をノックアウトしたマウスは通常のマウスと比べて異常になると予想し、苦心してノックアウトマウスを作った。だが結局通常のマウスとまったく変化がなかった。この結果に「どうして?」と著者ともに読者も大いに落胆させられるのだが、成功例ではなく、落胆の例をもってきたところが心憎い。さりげなく研究の苦心を伝えているようだった。

この本では個人的な立場からの発言も多く、普段は縁遠い学者という存在も身近に感じられる。彼らのこだわり、問題意識、問題解決までの壁もよくわかるうえ、ライバルに先を越されまいとする焦燥、思った結果が得られないときの絶望、ステップを首尾よくクリアしたときの喜びなどもよく伝わってくる。良書。