なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書) 菊澤 研宗

なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書)

上司の理不尽さのことより、内容として断然おもしろいのは、企業がしばしば倫理を無視するような行動をしてしまう理由を「エージェンシー理論」「取引コスト理論」「所有権理論」などといった、最近の経済学の考え方を用いて解明を試みている部分だろう。

企業はしばしば不祥事を起こすが、外部からみたらどれほど不道徳で愚かな行動にみえても、その企業、またその内部にいるものにとっては合理的な行動である場合がよくあるという点が議論の核。

なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書) 菊澤 研宗

たとえばかつて不二家が賞味期限切れ牛乳を使ってシュークリームを作っていた件については、どうせ消費者はうちの菓子製造プロセスなど知らないから(!)、1日くらい期限を越えたのを使ってでも、それでコストを抑えて儲けたほうが合理的でしょう? という考えの結果。

不二家 12粒ミルキーチョコレート 12粒×10箱

雪印による食中毒原因の隠蔽も、それを公表した場合にかかる様々なコスト――過去の信用をすべて失うかもしれないし、同社をとりまくすべての利害関係者をつぶしてしまうかもしれないなど――と比較して、隠し通せる可能性はゼロでない、だから隠し通すほうが合理的だ、という判断の結果だという。

馬鹿なことと承知しながら、やってしまう人間。ビジネス書なのに、読んでいて少しもの悲しさを感じる面もあった。

この「エージェンシー理論」「取引コスト理論」「所有権理論」は、いろんな現象を理解するためのツールになりそうで、これを知るだけでも得をすると思われる。

会社をやめたいのに居続けているのは、それをやるコストが大きい(1)新しい職場を探さないといけないうえ、それがみつかる保証もなければ、今より良い職場であるかも不明である。からにすぎないのかも、などと分析できる。

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上司の不条理な指示をも我慢するのは、反発するコストより我慢のほうがコストが低いという判断があるようだ、などとも理解できる。

自分のいる会社が、「どうせ顧客にはわからなから」という考えが多い会社だと感じる場合は、情報の非対称によるモラルハザードを論じたエージェンシー理論で多くのことが腑に落ちるだろう。


脚注

脚注
1 新しい職場を探さないといけないうえ、それがみつかる保証もなければ、今より良い職場であるかも不明である。