夏草の賦 (上・下) (文春文庫)  司馬 遼太郎

土佐の武将、長曽我部元親の物語。いずれ天下をとの思いを秘めつつ、まず順調に土佐を平定した元親。次は阿波取りという段になり、主でもない信長からおまえは土佐にすっこんでろ、さもないと討つと横槍をいれられる。元親は滅び覚悟で信長への不服従を選びとる……。

上巻では、元親の妻として美濃からやってきたおきゃんな菜々(光秀の家老の娘)とのやりとりが楽しく、戦の物語の中にある種の明るさを与えているようだ。

夏草の賦 (上) (文春文庫)  司馬 遼太郎

都会の娘が土佐に嫁に行くことの珍しさも含めて、本書は、土佐という田舎と、都との間にある、当時の文化・生活・衣食住水準のギャップを、たびたび読者に思い起こさせる。いきおい元親が人間くさい田舎侍、ないし山賊の親玉の延長のようなものとしイメージされる。それが元親への親近感を強めているように感じられた。

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長宗我部元親
wikiより)

元親は結局、秀吉に降伏し、二十年かけてとった四国から土佐一国に戻され、秀吉という主をもつことになった。下巻ではその痛ましい境遇を余すところなく伝えている。

夏草の賦 (下) (文春文庫)  司馬 遼太郎

仕事、学問、スポーツで「この相手にはどうしてもかなわない」という埋めがたい実力差を経験したことがある人は多いと思うが、元親も秀吉に対して軍事的な面でも人物としても、圧倒的な格の違いがあることを悟り、野心を放棄してしまったように思われる。

この諦念のなかでも人生は続く。夢をあきらめたけど、現実をしっかり生きていこうという人が読んでみると、元親に励まされるところがあるかも知れない。

(kindleの合本も出ている)