司馬遼太郎の代表作の一つ。
本作では、関ヶ原の戦い自体の描写はそれほど多くはない(1) 下巻の後半に描写される。が、そこに至るまでの過程の描写が緻密で、これこそが本書最大の魅力だろう。
秀吉死後の各勢力の対立構図もわかりやすく記されている。家康や三成を中心とした、人物間の政治的駆け引きの記述も詳細を極めている。関ヶ原の戦い前の、武将たちの思惑も、個別に丁寧に記してある。
関ケ原(上) (新潮文庫)
関ケ原(中) (新潮文庫)
関ケ原(下) (新潮文庫)
人物の性格付けも非常にきちっとしていて、読了後「関ヶ原関係諸氏」については大物についても小粒な人物についても脇役についても、一通りのイメージができるだろう。
例えば、「やれやれこの御仁は……」と内心三成に対して思いながらも、最後まで三成を立てて滅びた島左近。忠臣ぶりをみせつけた鳥居元忠。他武将のアイデアを借用しうまく立ち回った山内一豊。家康未着にいらいらする猪突型猛者、福島正則。それをなだめようとする井伊直政や本多忠勝。日和見でおろおろする小早川秀秋。ほかにも、達観している藤原惺窩もいい味を出している。
全編を通して、リーダーの器として三成には何が過剰であり何が欠けていたかという点に注意を払いつつ、時には冷たく突き放して――といっても著者の愛を感じない訳にはいかないが――、筆を進めているようだった。家康の老獪ぶりに対し、最後まで優れたリーダーになりきれなかった三成の哀れが際立つ。
上中下で計1500ページ。これはいたずらに長いのではなく、間違いなく必要な分量である。充実した一書。
キンドル版もある。
脚注
↑1 | 下巻の後半に描写される。 |
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