新選組の吉村貫一郎の生き様を描く幕末時代小説。吉村は貧困の中で家族を養うため、南部藩を脱藩してまで新撰組に加入し、給金をすべて送金し家族愛を貫いた文部両道の士。
本書は、吉村に関わった人物(斉藤一など)に大正期に語らせるスタイルをとっていて、現代からそう遠くないところに幕末を浮かび上がらせることに成功している。多くの人に一時代や一個人について語らせることにより、当時の様子が重層的に浮かび上がってきて、読者に忘れがたい印象を残す。
作者が紡ぎだし連ねていく一つ一つの言葉は、叙情のなかにも気迫がこもるものだ。幕末に起きた出来事と、それを経験した人の思いが、実際にこのようであったのではないかと、読者に確信させるだけの圧倒的なものが、この著作には含まれている。
幕末を皮膚感覚で感じることができるような傑作。
ながやす巧氏の画でコミック化されていて、こちらも絶賛されている(続刊中。壬生義士伝)。
中井貴一主演で映画化もされている。執筆時点でアマゾンプライムで視聴できる(壬生義士伝、Amazonプライム会員公式ページ)
すでに合本キンドル版も出ている。