あかね空 (文春文庫) 山本 一力

あかね空 (文春文庫)

京風の豆腐をひっさげて、江戸で店を構えた永吉、妻おふみ、そしてその家族の波乱万丈の物語。

あかね空 (文春文庫) 山本 一力

江戸とは違う京豆腐が受け入れられるまでの苦心と成功を描いた物語でもあるが、家庭での軋轢など問題を乗り越えて家族が協力して進んでいく様子も作品の柱だ。

描写においては、作中人物の目線や仕草を、あまり見たことがないほど丁寧に(と言っても、くどくならない程度に)書いていて、描写が映像として浮かんでくるのも特徴的。

前半は永吉一家の成功を祈りながらわりと気分よく読めるのだが、後半では家庭の問題が積み重なり、やや沈鬱な気分にさせられる。ただしそれは小説のおもしろさを阻害するものではないし、むしろ単純に幸せな結末に終わらせない作家の気概を感じた。