英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー― 寺島 隆吉

英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー―

現場でならした人ならではの本だ。

全体的に筆致が熱を帯びていた。本書を書いたのも、作品として上梓したいから、というより、危機感を読者にも共有してもらいたいからなのだろうと、自然に伝わってくるほどだ。

本来は舞台裏に秘めておくような 「恥ずかしながら~のことは、~という本を読んではじめて知った」的な記述も散見されるが、逆に著者の誠実さが表れているところなのかもしれない。

英語教育が亡びるとき―「英語で授業」のイデオロギー― 寺島 隆吉

内容は主に、

・アメリカの負の面を知らないままに、英語を教えることへの警鐘
・英語で授業という、現場を乖離した英語教育論への徹底抗議
・口だけ出して金をださない文科省への抗議
・日本語で学問がまにあう日本の強みの再考

からなりたっている。

参考までにいくつか引用しておこう。

現在の文科省の「英語で授業を」という方針は、何度も言いますが、「不可能を可能にせよ」と言っているに等しいのです。もし文科省が、何が何でも日本人全員を「英語が使える」民族にしたいのであれば、そのための教員養成にお金を惜しんではならないのです。「金は出さずに口だけを出す」というのでは、まさに「無い物ねだり」というべきでしょう。

pp.151-152

公立小学校で全国的に英語をやってこなくても、日本は自国語で教育・研究を進め、ノーベル賞受賞者を何人も産み出してきましたし、世界第二位の経済大国となりました。その経験や秘密を伝えてこそ、真の国際貢献になるでしょう。

p.152

ちなみにノーベル賞の益川さんは大学院入試で、ドイツ語は白紙、英語も散々な成績だったそうだ。物理が非常によい、外国語なんてあとからどうでもなるという当時の試験官の判断は適切だった。いろんな分野で、日本語で十分な思考ができるということのありがたみを改めて噛みしめるしだいである。