自分や関わった人物たちのことを切れ味良く語った本。滅法おもしろい。
「小ざかしい知識より胆力がこそが重要である」という思想が全編に通底していて、これこそ数々の荒波を打ち破ってきた実践家である勝海舟から後生への最大のメッセージだ。
彼自身そういう人物であったし、勝は自分さえも越えているかもしれない人として西郷隆盛を挙げ、その肝っ玉に最大の敬意を払っている。
編者による解説文にも記されていたが、江戸城無血開城という不可能を可能にした勝が、極限まで孤独であったに違いないということは忘れてはいけない。
戦わずして城を明け渡すなど、徳川方からみれば途方もない背信である。しかし勝は「日本にとっての最善とは?」という大局観に基づいて、城を明け渡す判断をした。これは信念と途方もない勇気、それに孤独に耐えるエネルギーがなければ不可能だろう。勝の真骨頂はここにあるという気がする。
勝の業績を考えるとき、彼の孤独がいかほどのものだったかに思いを馳せるのもよい。三十年ごしに徳川方への義理立ても成し遂げ、筋を通している。
幕末の魅力ある人物群像の中で勝海舟は必ずしも派手さはないが、その生き方は誰もが尊敬しないではいられないだろう。