標準語の成立事情―日本人の共通ことばはいかにして生まれたか (PHP文庫) 真田 信治

標準語の成立事情―日本人の共通ことばはいかにして生まれたか (PHP文庫)

江戸初期にイエズス会のジョアン・ロドリゲスは、関東の言葉について次のように書き残しているそうで、はなはだ興味深い。

『シェカイ(世界)』の代りに『セカイ』といひ、『サシェラルル』の代りに『サセラルル』といふ。

標準語の成立事情―日本人の共通ことばはいかにして生まれたか (PHP文庫)

当時は上方語が標準語で、関東の言葉はあくまで特殊なのだ。

いま知っているような標準語以外に標準語がありえたかもしれないと想像するのはむずかしいことだが、(まるで逆みたいな)ロドリゲスの記述をみるにつけ、やはりそれは歴史の趨勢によってはありえたことなのだろう。そんな想像も楽しい。

ジョアン・ロドリゲス編「日本大文典」
日文研データベースより)

著者によれば、各地で書かれた方言書における対照言語をみるに、18世紀中ごろから、上方語から江戸語に換わったとのこと。薩長が果たした御一新であったが、徳川を倒せど、どこでも通用するようになっていた江戸の言葉を覆せるはずもなく、それがそのまま現代標準語の大元となっている。

現代では世界を「セカイ」と言って平気な顔をしていられるのはこのためなのだ。