「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3)) 山本 七平

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

「あの時はそんなことをいえる空気ではなかった」などというが、空気とは結局何なのだろうか。

空気とは、対象(事物・人物)が特定の意味づけをされ、そのイメージが絶対視されている状況で生まれるものである。空気は、絶対視されたものである限りにおいて、人々の意識を超越的に拘束してくる。

「空気」の研究 山本 七平

昔の本(1977年)なので、例は古くてややとっつきにくい。ここではオウム真理教で考えてみる。マスコミは同団体を、サリン散布した極悪集団とのみ意味付与し、その見方を絶対化した。学者の一部には、教団の教義に一分の理を認めたものもあったが、その極悪像の絶対化の前には、つまり空気の前には、オウム擁護のコメントなど部分的にすらしてはいけないことになった。

これくらいは大きな問題ではないかもしれないが、たとえば明らかに敗色濃厚な戦争において、「あのときは降伏を言い出せる空気ではなかった」ということになると極めて困難な状況にいたる。「空気を読め!」とよく言われるが、あえて読まないことが偉大な選択になる場合もあるのだ(1) 空気を読まなかった偉大な人物としてここで思い出したいのは、薩長に最後まで抵抗する空気に抗って江戸城無血開城を実現させた勝海舟だ。


脚注

脚注
1 空気を読まなかった偉大な人物としてここで思い出したいのは、薩長に最後まで抵抗する空気に抗って江戸城無血開城を実現させた勝海舟だ。