続・ウィーン愛憎―ヨーロッパ、家族、そして私 (中公新書) 中島 義道

名著『ウィーン愛憎』の続編。

続・ウィーン愛憎―ヨーロッパ、家族、そして私 (中公新書)

近年(本書出版は2004年)ウィーンがかなり変化しているという指摘が興味深い。

「古きよきウィーン」の格式が失われ国際都市化してきている、騒音が増している(著者は騒音反対でも有名)、人が他人を注意しなくなっている(老人に席を譲らなくてもだれも注意しない)、かつての日本への偏見はなくなってきている、などなど(1)ウィーンでは「ヤパノロギー(日本学)」が人気の学科なのだそう。禅などの授業も盛況とのこと。近年はウィーン人はヨーロッパ中心主義に強く自己批判を行っているそうだが、著者は、ヨーロッパ中心主義ではいけないという考えをヨーロッパ以外の人にも「強いて」いるのは、皮肉ながらヨーロッパ中心主義の究極の形だと、正当にも指摘している

続・ウィーン愛憎―ヨーロッパ、家族、そして私 (中公新書) 中島 義道

『ウィーン愛憎』での苦難の留学記と比較して言えば、本書は大学に職を得た著者の社会的成功後の話だから、随所に幸福感はみられる。しかしながら、家族でさえ自分に踏み込んでくることを拒む姿勢など、著者の強い個性により、家庭内は穏やかさとは程遠いようである。

過去の著書でも、虚栄に満ちたご母堂への憎しみなどを赤裸々に書いていたが、今回は家族の不和をまるで包み隠さず書いていて、書かれる側の困惑は想像に難くない。よほどの「覚悟」がないとここまで書けない。こういう嘘のない姿勢が、著者が特殊な人気を保つ所以であろう。

脚注

脚注
1 ウィーンでは「ヤパノロギー(日本学)」が人気の学科なのだそう。禅などの授業も盛況とのこと。近年はウィーン人はヨーロッパ中心主義に強く自己批判を行っているそうだが、著者は、ヨーロッパ中心主義ではいけないという考えをヨーロッパ以外の人にも「強いて」いるのは、皮肉ながらヨーロッパ中心主義の究極の形だと、正当にも指摘している